2025/02/26 11:17
樽熟成焼酎の真骨頂、遂に解禁
新ブランド「The Rokuchoshi SP」
焼酎には、『樽で熟成した焼酎には色濃度を薄めなければ販売することはできない』という厳しい決まりがあります。これにより、焼酎として販売するために、活性炭を用いた濾過方法で樽由来の色を脱色させておりました。
正確には、吸光度430nmと480nmで計測した場合のいずれも0.08以下(ウイスキーの色濃度の約10分の1以下)まで薄める必要があるのです。残念ながら、いくら活性炭が色を抜くためのもであるとは言え、流石にここまで脱色してしまうと、樽由来の原酒の風味を多少損なってしまうのは否めません。なんとか樽貯蔵焼酎をそのままの色でお届けできないか、という思いが長年ありました。

そして、この不条理な色の制約を受けない方法として、六調子酒造は1つの手段を得ることができました。それが「スピリッツ製造免許の取得」です。これにより、樽熟成焼酎を脱色することなく販売することが可能になったのです。
リキュールではなく、スピリッツという選択
これまで、この色規制を回避する手段として、焼酎ではなくリキュールとして販売するという業界の手法もありましたが、リキュールは酒税法上「2%以上糖類等エキスを混ぜてあるもの」という定義があるため、六調子酒造としては前向きではありませんでした。
一方で、今回免許を取得できたスピリッツであれば、余計なものを一切混ぜることなく、蒸留酒という体裁を保ったまま出荷することができます。
税法上、品目:スピリッツ 品名:ウオッカ
と記載しておりますが、中身は本格焼酎そのものです。

圧倒的なバニラ香と果実感の秘訣、米麹
バニラ香とは、オーク樽で熟成させた際に、樽から影響を受ける特徴的な甘い香りのことです。そしてその香りを増幅させる役割が、なんと米麹にはあります。米麹と聞けば、特に日本酒飲みの方にはピンと来るのではないでしょうか?
日本酒のフルーティさや、日本の発酵文化の根幹を支えていると言っても過言ではない米麹。焼酎でも当たり前に使われています。

その発酵力は凄まじく、酒造りに必要な、「発酵と糖化」という段階を並行して同時に完了させてしまうのです。これは、世界中の酒の中でもかなり珍しいことなのです。そうやって出来上がったもろみは、たった1回の蒸留だけで十分な酒精を引き出すことができます。
これは、度数を上げるために複数回蒸留するのが常識である世界の蒸留酒と比べ、より原料の旨味成分を引き出すことに秀でているとも言えるのです。(その分、蒸留直後は鼻が曲がるくらいクセがすごいのですが…)
そして、その原料である米麹が持つフェルラ酸が、熟成の過程でバニリン酸に変化します。このバニリン酸こそが、バニラ香の由来なのです。
つまり、焼酎の元々含んでいる成分が、樽貯蔵と非常に相性がいいのです。
社長メッセージ
私どもは創業以来、米焼酎の可能性を信じ、平均12年以上の熟成期間を経て、丁寧に焼酎を造り続けてまいりました。常圧蒸留という500年以上の伝統を守りながら、スコットランドのハイランド地方と同じ気温湿度に設定した貯蔵庫で、ゆっくりと時を重ねた焼酎たち。その一つ一つに、私どもの思いと誇りが詰まっております。
しかし、これまで皆様にお届けできずにいた焼酎がありました。それは、樽で熟成させた色そのままの焼酎です。樽由来の深い琥珀色を帯びたこの原酒は、まさに時が生み出した芸術品。世界の高級酒にも引けを取らない風味と深みを持っております。
ところが、この焼酎には大きな壁が立ちはだかっておりました。焼酎は色を薄めなければならないという規制です。この規制のために、私どもは長年、樽熟成の焼酎を脱色したり、薄めたりせざるを得ませんでした。
その度に、せっかく育んだ旨味や香りを少なからず失ってしまう。その歯がゆさ、もどかしさは、言葉では言い表せないほどでした。
この状況を打開するため、私どもは様々な方法を模索してきました。時には国税庁と、時には業界全体と議論を重ね、樽焼酎の可能性を訴え続けてきましたが、この直近の数年で、焼酎業界自体からの反対票を覆すことができず、この規制はもう揺るぐことはないだろうという結論にたどり着きました。
この色規制のルールを回避する方法として、原酒に糖類等のエキスを混ぜ、リキュールとして販売する道もありましたが、それでは私どもが目指す姿とはかけ離れてしまいます。取引先からも、所謂この樽焼酎リキュールを製造してほしいという声もあり、検討したこともあるのですが、せっかく数十年という長い年月を掛けて育んだ原酒に糖類などを混ぜものするという行為には、一蒸留家として度し難いものでした。
しかし、ついに光明が差しました。スピリッツ製造免許の取得です。これにより、樽熟成の焼酎を、脱色することなく、逆にカラメルなどで着色することもなく、糖類をブレンドすることもなく蒸留酒の姿のままでお披露目することが可能となったのです。
この瞬間を迎えられた喜びは、筆舌に尽くしがたいものがございます。長年の歯がゆい思いが、ようやく報われた気がいたします。そして、これからの可能性に、胸が高鳴ります。
私どもが守り続けてきた酒づくりの伝統は、実は日本が世界に誇る革新的な技術の一つでもあるのです。それが証明された物語は、19世紀後半にまで遡ります。
1886年、日本の偉大な化学者、高峰譲吉博士が「高峰式元麹改良法」という画期的な技術を開発しました。これは、日本古来の麹をウイスキー醸造に応用するという、驚くべき発想でした。麹の持つ強力なデンプン分解力は、従来の麦芽を遥かに凌ぐものだったのです。

高峰博士はこの技術を携えて1890年に渡米しますが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。新技術への反発や暗殺未遂、研究所の全焼など、数々の反発に合い、結局このウイスキーが実現することはついぞなかったのです。
業界の反発が殺人未遂にまで発展するほどですから、高峰博士の作ろうとしていたウィスキーはよっぽど美味しかったに違いありません。
しかし、この高峰博士の偉業は、私どもの焼酎づくりの根幹とも深く通じるものがあります。私どもが焼酎づくりに用いる米麹は、まさに高峰博士が世界に示した日本の叡智の結晶なのです。そしてまた、皮肉にも焼酎業界は色規制という同じような運命を辿ってきました。
米麹の持つ強力な発酵力により、焼酎は一回の蒸留だけで十分な品質と濃度を実現しております。これは、二回以上の蒸留を要するウイスキーよりも、原料の特性を色濃く残すことができる大きな利点となっています。また、米麹が含むバニリン酸は、樽由来の香りと見事に反応し、深いバニラ香を醸します。
皆様が普段何気なく飲まれている焼酎に、実はとんでもないポテンシャルが眠っていたことをおわかりいただけましたでしょうか?焼酎は、ただ安酒として消費されるにはもったいない蒸留酒なのです。そしてそのポテンシャルを可能な限り引き出すのが、私がこの30年提唱し続けてきた「焼酎の熟成」というアイデアなのです。
今後は、この新しい扉を開いたスピリッツを通じて、日本の蒸留酒の素晴らしさを、より多くの方々に、より深くお伝えしてまいりたいと存じます。国内はもちろん、海外の方々にも、日本が誇る醸造・蒸留技術と熟成の妙をお楽しみいただけるよう、努めてまいります。
どうか、長い年月をかけて育んだこの一滴を、ゆっくりとお楽しみください。琥珀色の液体が放つ香りと味わいに、日本の蒸留酒文化の深さと、私どもの情熱を感じていただけましたら幸いです。
最後になりましたが、長年にわたりご支援いただいた皆様に心より感謝申し上げます。これからも、より良い酒造りに邁進してまいります。今後とも変わらぬご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。
六調子酒造株式会社 代表取締役 池邉道人